〜内部的な過負荷と神経筋制御の乱れ〜
今回は「肉離れ」について、少し深く掘り下げてみたいと思います。
「全力で走っていたわけでもないのに、ふくらはぎがブチッといった」
「後ろを振り返っただけでアキレス腱が切れた」
そんなケースは多くはないですが存在します?
ギックリ腰もこれに近いかもしれません。
確かに、スポーツ中のダッシュやジャンプなど、強い動作によって肉離れが起きるのは分かりやすいです。ですが、「なんでもない動き」で重大な損傷が起きるケースも珍しくありません。
たとえば、元イングランド代表のサッカー選手・デビッド・ベッカムは、後ろ向きに動いた拍子にアキレス腱を断裂しました。
これは、いわゆる「内部的な過負荷」が関係しています。
内部的な過負荷とは?
「外から見えるほどの強い動作ではないのに、筋肉や腱の内部には限界を超える負荷がかかっていた状態」
これが内部的な過負荷です。
たとえば、車のエンジンは静かに動いていても、内部では高温・高圧の状態が続いています。見た目には静かでも、エンジンに何か異常が起きれば大事故につながる――。
人間の体にも、それに似たことが起きています。
どうして内部的な過負荷が起きるのか?
1.
筋肉の収縮と伸張の不協和
筋肉は「縮む(収縮)」だけでなく、「伸ばされながら力を出す(伸張性収縮)」という働きもしています。
たとえば、走っていて急に止まるとき、筋肉は伸ばされながらブレーキをかける必要があります。このとき、筋肉はとてもデリケートな調整を求められているのです。
ほんの少しでも、「縮もうとしているのに外から伸ばされる」というズレが起きると、筋繊維に無理なテンションがかかって肉離れを起こします。
2.
拮抗筋の協調性が失われる
筋肉はペアで動きます。
前もも(大腿四頭筋)と裏もも(ハムストリングス)などがその代表です。
片方が縮めば、もう片方は自然に緩まなければいけません。
ですが、うまく緩められない状態があると、動作のたびに筋肉に強い負荷がかかってしまいます。
この「筋肉同士のチームワークの乱れ」も、見えない負荷を生みます。
3.
神経のエラーによるタイミングのズレ
人間の動作はすべて「脳→神経→筋肉」の指令で行われています。
しかし、疲労・睡眠不足・ストレス・冷えなどの影響で、神経からの命令がズレて伝わることがあります。
わずかなタイミングのズレ。
でも、それが結果として「ブレーキとアクセルを同時に踏んでしまう」ような力のかかり方になり、筋肉の一部が壊れてしまうのです。
4.
感覚のズレ
人間の体は、「今、足がどこにあるか」「どのくらい伸びているか」という感覚を常に脳に送り続けています。
ですが、過去の怪我や筋肉のアンバランスがあると、この感覚が狂います。
たとえば、「まだ足は真っすぐ伸びていない」と感じていても、実際は限界まで伸びていたとしたら…。
さらに力を入れた瞬間、その部位に壊れるほどの力が加わることになります。
鍼灸師の視点から
肉離れの治療で来院された方がこうおっしゃることがあります。
「ただ歩いてただけなのに、急にブチッときたんです…」
このようなケースには、外側ではなく「内側にたまった見えない過負荷」が必ずあります。
筋肉の張り、左右差、動きのクセ、姿勢の乱れ、神経の興奮状態――。
鍼灸治療では、こういった身体全体の協調性を整えていくことで、再発予防につなげていきます。
最後に
「強く動いたから壊れた」とは限りません。
体の中では、静かにでも確実に負荷が溜まり続けていることがあります。
それが限界を超えたとき、「なんでもない動作」で重大な怪我が起こるのです。
あなたの体がもし「ちょっとした動きで違和感が出る」「特定の動きが怖い」と感じているなら、それは内部的な過負荷のサインかもしれません。
小さな異変のうちに、ご相談ください。
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